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抗がん剤による口内炎は赤色光・近赤外光予防できる?13研究・828人を比較

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抗がん剤治療では、口の中に炎症や潰瘍ができ、食事をするのもつらくなることがあります。こうした口内炎を、症状が出る前に防ぐ方法はないのでしょうか。

その方法の一つとして研究されているのが、赤色光や近赤外光を使う「PBM(フォトバイオモジュレーション)」です。

2025年に科学誌『Biomedicines』で発表された論文では、13件の臨床試験、合計828人の結果を集め、予防的に光を当てる方法について検証しています。

全体の数字を見ると、光を当てたグループでは128人、当てなかったグループでは211人が口内炎を発症していました。

一見すると、大きな違いがありそうです。しかし、詳しく調べると、光を当てたほうが口内炎の発生割合が高かった研究も見つかっています。

今回は、なぜ研究によって結果が異なるのか、どのような種類の光を、いつ、どのくらい当てていたのかを中心に、13研究の結果を詳しく紹介します。

口内炎ができる前から光を当てる。今回の研究が注目した予防PBM

抗がん剤治療に伴う口内炎は、医学的には「口腔粘膜炎」と呼ばれます。

初めは口の中が赤くなったり、腫れたりする程度でも、症状が進むと痛みの強い潰瘍ができることがあります。食事や水分補給が難しくなり、栄養不足や脱水につながる場合もあります。

そこで研究されているのが、赤色光や近赤外光を使い、細胞や組織の働きに影響を与えることを目指す「PBM」です。

PBMは、できてしまった口内炎の症状を和らげる目的だけでなく、口内炎ができる前から予防的に使用する方法も研究されています。

今回の論文が注目したのは、後者の「予防」です。

抗がん剤治療によって口内炎が発症する前から光を当てることで、発生を減らしたり、症状を軽くしたりできるのか。

過去の臨床試験を集め、この疑問を検証しました。

1,895件から13研究を選出。合計828人の結果を分析

今回の論文は、新たに患者を集めて実験したものではありません。

過去に発表された臨床試験を探し、研究方法や結果を比較した「システマティックレビュー」と呼ばれる研究です。

研究チームは2024年8月5日までに、複数の医学論文データベースなどを調査しました。

最初に見つかった1,895件の文献から、目的に合う13件の臨床試験を選び、詳しく分析しています。

研究の概要を整理すると、次のようになります。

項目内容
発表年2025年
研究形式過去の臨床試験をまとめたシステマティックレビュー
対象研究13件
参加者数合計828人
年齢1〜84歳
対象抗がん剤治療を受けるがん患者
使用された光赤色光・近赤外光のレーザー
主な評価項目口内炎の発生人数・重症度
主な比較予防的なレーザーを受けたグループと、受けなかったグループ

対象となったのは、参加者を無作為にグループ分けして比較した臨床試験です。

一方、過去に放射線治療を受けた患者を含む研究や、LEDを実験用の光として使用した研究などは除外されました。

つまり、今回のレビューは、抗がん剤治療による口内炎に対して、レーザーを予防的に使う方法に焦点を絞っています。

なお、比較対象にLEDを使用した臨床試験は含まれています。

赤色光が中心。ただし波長も使用頻度も研究ごとに違った

13件の研究では、主に赤色光のレーザーが使用されました。

ただし、すべての研究で同じ光を使ったわけではありません。一部には近赤外光を使用した研究や、赤色光と近赤外光を組み合わせた研究もありました。

使用された波長は630〜940nmです。

光の種類使用された波長
赤色光630nm、660nm、670nm、685nm
近赤外光780nm、830nm、940nm
赤色光と近赤外光の組み合わせ660nm+830nm

最も多く使われていたのは、630〜660nm付近の赤色光でした。

光の当て方も研究によって異なっていました。口の中の粘膜に直接レーザーを当てる方法のほか、口の外側から光を当てる方法も使われています。

全体として、赤色光は口の中から、近赤外光は口の外側から当てる方法で多く使用されていました。ただし、今回のレビューでは、各研究で具体的に何か所に何秒ずつ光を当てたかまでは、詳しく整理されていません。

光を当てる場所だけでなく、使用頻度にも違いがありました。代表的な研究条件を見てみましょう。

研究参加人数光の種類光を当てる頻度光の量
Menezesら(2021年)287人赤色光630nm抗がん剤治療開始時から7日後まで毎日2J/cm²
Salvadorら(2017年)51人赤色光660nm治療開始時から7日後まで毎日4J/cm²
Arbabi-Kalatiら(2013年)48人赤色光630nm治療開始の前日から週1回5J/cm²
Cruzら(2007年)60人近赤外光780nm治療開始時から5日後まで毎日4J/cm²
De Castroら(2013年)40人赤色光660nm+近赤外光830nm治療開始時から5日後まで毎日35J/cm²
Ferreiraら(2013年)28人赤色光660nm治療開始の前日から、退院まで2日おき80J/cm²

表にある「J/cm²」は、一定の面積に当てた光のエネルギー量を示す単位です。

13研究全体では、この数値は2〜80J/cm²と大きく異なっていました。使用頻度も、毎日、2日おき、週1回などさまざまです。

また、今回のレビューでは各研究の光の強さや頻度がまとめられていますが、すべての研究について1回あたり何秒・何分当てたかを確認できるわけではありません。

この時点ですでに、単純に「何nmの光を使えばよい」と決められないことがわかります。

口内炎の発生割合は27.6%と57.8%。828人をまとめると大きな差に

では、実際に口内炎を発症した人はどのくらいいたのでしょうか。

論文によると、13研究の参加者828人のうち、口内炎を発症したのは339人でした。

全体の発生割合は40.94%、およそ10人に4人です。

さらに、レーザーを受けたグループと、受けなかったグループを分けて比較すると、次のようになります。

グループ参加者数口内炎を発症した人数発生割合
予防的にレーザーを受けた463人128人27.6%
予防的なレーザーを受けなかった365人211人57.8%
全体828人339人40.94%

※グループ別の発生割合は、論文の結果表に記載された人数から計算しています。

レーザーを受けたグループでは、口内炎を発症した人は27.6%、およそ10人に3人でした。

一方、レーザーを受けなかったグループでは57.8%、およそ10人に6人です。

両グループには約30ポイントの差がありました。

つまり、13研究をまとめた人数で見ると、予防的にレーザーを受けた人のほうが、口内炎を発症した割合が低かったことになります。

ただし、これは13研究の人数を合計した単純な集計です。研究ごとの条件や参加人数の違いを調整した統計分析ではありません。

「レーザーを受ければ口内炎の発生率が必ず約30ポイント下がる」という意味ではない点に注意が必要です。

口内炎発生割合の比較チャート

287人の研究では、赤色光を当てた人の発生割合が低かった

13件の中で、最も参加者が多かったのはMenezesらが2021年に発表した研究です。

この研究では287人を対象に、630nmの赤色光レーザーを使用しました。抗がん剤治療の開始時から7日後まで、毎日光を当てています。

グループ参加者数口内炎を発症した人数
赤色光を当てた204人30人(14.7%)
レーザーを作動させなかった83人48人(57.8%)

赤色光を当てたグループでは、口内炎を発症したのは14.7%、およそ7人に1人でした。

一方、レーザーを作動させなかったグループでは57.8%で、半数を超えています。

この研究では、赤色光を受けたグループのほうが、口内炎の発生割合が大きく低い結果でした。

ただし、この研究では予防だけでなく、発症後の治療も含む方法が使われています。そのため、予防的に光を当てたことだけの影響として切り分けることはできません。

赤色光なしでは24人全員が口内炎に。48人の試験でも差が

2013年のArbabi-Kalatiらの研究では、48人を2グループに分け、630nmの赤色光を使った予防を比較しています。

この研究では、抗がん剤治療が始まる前日から、週1回のペースでレーザーを当てました。

グループ参加者数口内炎を発症した人数
赤色光を当てた24人10人(41.7%)
レーザーを作動させなかった24人24人(100%)

赤色光を当てたグループでは24人中10人が口内炎を発症したのに対し、レーザーを作動させなかったグループでは24人全員が発症しました。

また、赤色光を当てたグループでは、最も重い症状に相当するグレード3の口内炎は確認されませんでした。

一方、レーザーを作動させなかったグループでは、10人にグレード3の口内炎が見られています。

この研究では、発症する人の割合だけでなく、症状の重さにも違いが見られました。

ただし、参加者は48人です。この結果がほかの患者や使用条件にも当てはまるかは、さらに検証する必要があります。

ところが、近赤外光780nmの研究では逆の結果に

ここまで見ると、光を当てたほうが口内炎を予防できそうに思えます。

しかし、今回のレビューには、必ずしも同じ傾向を示さなかった研究もあります。

2007年のCruzらの研究では、3〜18歳の60人を対象に、780nmの近赤外光を使いました。

その結果がこちらです。

グループ参加者数口内炎を発症した人数
近赤外光を当てた29人13人(44.8%)
レーザーを作動させなかった31人7人(22.6%)

この研究では、近赤外光を当てたグループのほうが、口内炎を発症した人の割合が高い結果でした。

論文でも、この研究では予防的なレーザーの明確な利点が確認されなかったと説明されています。

ただし、ここから近赤外光が口内炎を増やすと判断することもできません。

また、2021年のGuimarãesらの研究では、660nmの赤色光レーザーを受けた40人中4人(10%)、比較対象のLEDを受けた40人中5人(12.5%)が口内炎を発症しました。

こちらは、発生割合の違いが小さい結果です。

このように、13研究をまとめるとレーザーを受けたグループで発生割合が低い傾向があるものの、すべての研究で同じ結果が得られたわけではありません。

年齢やがんの種類、使用した光の条件など、さまざまな違いがあります。今回のレビューだけでは、どの条件が結果の違いに影響したのかを特定することはできません。

口内炎ができても、重症化を抑えられる可能性

口内炎の予防を考えるうえで大切なのは、発症するかどうかだけではありません。

もし口内炎ができてしまっても、症状が軽く済むのであれば、それも重要な結果です。

2014年のSilvaらの研究では、660nmの赤色光レーザーを受けた11人と、レーザーを作動させなかった14人を比較しています。

グループ口内炎を発症した人数症状の重さ
赤色光を当てた11人中8人8人全員がグレード1
レーザーを作動させなかった14人中8人8人全員がグレード2〜3

口内炎を発症した人数は、どちらのグループも8人でした。ただし、グループの参加者数が異なるため、発生割合は同じではありません。

注目したいのは、その症状の重さです。

赤色光を当てたグループでは、発症した8人全員が軽い症状に相当するグレード1でした。一方、レーザーを作動させなかったグループでは、8人全員がグレード2〜3と判定されています。

この研究では、口内炎の発生そのものを減らしたとは言えないものの、発症した場合の症状が軽い傾向が見られました。

参加者が25人と少ないため慎重に受け止める必要がありますが、予防的なPBMを評価するときには、発生人数だけでなく重症度も重要であることがわかります。

抗がん剤治療の10〜14日前から始める方法は、まだ検証が不足

予防的に光を使うのであれば、いつから始めるのがよいのでしょうか。

今回のレビューでは、光を当て始めるタイミングも研究ごとに異なっていました。

抗がん剤治療の開始時から毎日光を当てる研究が多い一方、治療開始の前日から始めた研究もあります。

論文の著者らは、理想的には抗がん剤治療の少なくとも1週間前、できれば10〜14日前から予防的にPBMを行うことに期待を示しています。

しかし、10〜14日前から始める方法が最も効果的だと実験で確認されたわけではありません。

むしろ論文では、このタイミングからPBMを開始する方法について、十分な臨床試験がないことを限界として挙げています。

今回のレビューからは、「発症前から光を当てる方法には期待できる結果がある」と言えますが、最適な開始時期までは判断できません。

光が細胞に影響する仕組みも、過去研究をもとに考えられている

そもそも、なぜ赤色光や近赤外光が口内炎の予防に関係すると考えられているのでしょうか。

論文では、過去の研究をもとに、光が細胞内の反応に影響する可能性を説明しています。

赤色光については、細胞が活動するときに必要なエネルギーをつくる働きなどへの影響が紹介されています。

近赤外光については、細胞の表面にある物質の出入りを調整する仕組みなどへの影響が考えられています。

こうした反応が、炎症を抑える働きや組織の修復に関係する可能性があるという考え方です。

ただし、今回の13研究では、これらの細胞内の反応が直接確認されたわけではありません。

実際に調べられたのは、主に口内炎の発生や症状の重さです。光が細胞の中でどのように働いたのかは、過去研究に基づく説明として分けて理解する必要があります。

安全性については肯定的。ただし長期的な評価には限界も

今回の論文では、PBMは身体への負担が少ない方法として説明され、安全性についても肯定的に評価されています。

一方で、13研究それぞれについて、好ましくない変化の種類や発生人数が詳しく一覧化されているわけではありません。

そのため、この論文だけから「828人全員に副作用がなかった」と結論づけることはできません。

また、今回のレビューは、長期間にわたってレーザーの安全性を追跡した研究ではありません。

抗がん剤治療中の短い期間で得られた結果と、長期的な安全性は分けて考える必要があります。

13研究を集めても「最適な光の条件」が決まらない理由

今回のレビューでは、13研究のうち11件(約85%)が、研究結果に偏りが生じるリスクが低いと評価されました。

残る2件は、研究方法に関する情報が不足していたため、中程度のリスクと評価されています。

複数の臨床試験を集め、研究の質まで確認している点は、今回のレビューの特徴です。

ただし、いくつかの限界があります。

まず、波長、光の強さ、光の量、使用頻度が研究ごとに異なっています。さらに、予防だけを行った研究と、発症後の治療も組み合わせた研究が含まれています。

比較対象も、レーザーを作動させない処置、通常の口腔ケア、LEDなど、一律ではありません。

そのため、どの光の種類や使用方法が最も適切なのかは、このレビューだけでは決められません。

また、参加者の食生活や口腔衛生の状態、生活習慣などの情報も十分にそろっていませんでした。

口内炎の発生には患者ごとの健康状態なども関係する可能性があるため、こうした違いを無視することはできません。

さらに、レビュー内では一部の結果について、説明文と表の数字に一致しない箇所もあります。本記事では、発生人数について原論文の結果表に記載された値を基準に紹介しました。

なお、今回のレビューでは、論文の掲載費用の一部をFernando Pessoa Canary Islands Universityが負担したと記載されています。著者らは、利益相反はないと申告しています。

今後、より多くの参加者を対象に、波長や使用量、開始時期をそろえた臨床試験が行われることで、適切な予防方法がより明確になると考えられます。

家庭用LED機器にも同じ予防効果は期待できるか

今回のレビューで扱われた実験では、主に医療用のレーザーが使用されています。

実験用の光としてLEDを使用した研究は、レビューの選定段階で除外されました。

そのため、今回の結果を家庭用の赤色光・近赤外光LED機器へそのまま当てはめることはできません。

また、研究では光の種類だけでなく、光の強さやエネルギー量、使用頻度なども設定されていました。

同じ波長を使う機器であっても、それ以外の条件が一致するとは限りません。

抗がん剤治療中の口内炎に対して光を使うことを検討する場合は、自己判断ではなく、担当の医師や歯科医師に相談する必要があります。

まとめ|13研究が示したのは、口内炎を「防ぐ可能性」と条件を探る必要性

今回の2025年のレビューでは、抗がん剤治療による口内炎に対して、赤色光や近赤外光を予防的に使用した13件の臨床試験が分析されました。

合計828人の結果をまとめると、レーザーを受けたグループでは128人、受けなかったグループでは211人が口内炎を発症していました。

それぞれの参加人数をもとに計算すると、発生割合は27.6%と57.8%です。

また、一部の研究では、口内炎を発症した場合でも症状が軽い傾向が確認されています。

これらの結果は、赤色光や近赤外光を使った予防的なPBMが、抗がん剤治療による口内炎の発生や重症度を減らす方法として役立つ可能性を示しています。

一方で、すべての研究で同じ結果が得られたわけではありません。なかには、光を当てたグループのほうが口内炎の発生割合が高かった研究もあります。

さらに、波長や光の量、使用頻度、開始時期も研究ごとに異なるため、最適な使用条件はまだ決まっていません。

今回の研究から最も素直に読み取れるのは、抗がん剤治療に伴う口内炎に対して、症状が現れる前からレーザーを使用する方法には、予防につながる可能性を示した臨床試験が複数あるということです。

ただし、誰にでも同じ結果が得られることや、家庭用LED機器でも同じ予防効果があることまで示した研究ではありません。

今後は、予防を始める時期や光の条件をそろえた研究によって、より適切な使用方法を明らかにすることが求められます。

参考文献

Preventive Photobiomodulation for Chemotherapy-Induced Oral Mucositis: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials

Susell Parra-Rojas, Rocío Trinidad Velázquez-Cayón, Maria Elena Ciortan-Pop, Manoela Domingues Martins, Juliana Cassol Spanemberg

2025年

Biomedicines, 13(2), 268

DOI:10.3390/biomedicines13020268

PROSPERO登録番号:CRD42023465329