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細胞再生・創傷治癒促進

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傷の治癒を赤色光・近赤外光は助けるか?LLLT研究164文献をレビュー

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赤色光や近赤外光を体に当てることで、傷の治り方に変化はあるのでしょうか。

光を当てるだけで組織の修復に影響すると聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。しかも、「赤色光」「近赤外光」「LLLT」「PBM」など、似た言葉がいくつも出てくるため、何を使った研究なのか分かりにくいこともあります。

今回紹介するのは、低出力の光を使うLLLT(低出力レーザー療法)について、1990〜2019年の研究を幅広く整理した2020年のレビュー論文です。

研究者らは最終的に164本の文献を評価し、皮膚の傷ややけどだけでなく、髪、神経、痛み、骨、がん治療に伴う症状など、さまざまな分野でLLLTがどのように研究されてきたのかをまとめています。

先に結論を言うと、傷の修復を含む多くの研究で前向きな結果が報告されていました。

ただし、使われた光の種類や量、時間などは研究ごとにかなり違います。「この波長をこの時間使えば傷が治る」といった、ひとつの方法が確立されたわけではありませんので、注意が必要です。

【前提】LLLTに使われる光「600〜1000nm」は、赤色光だけではない

この論文を見ていく上でまず整理しておきたいのが、「LLLT=赤色光」ではないということです。

レーザーは光を出す方法のひとつで、赤く見えるレーザーもあれば、人の目にはほとんど見えない近赤外領域のレーザーもあります。

今回の論文では、LLLTで一般的に使われる光について、600〜1000nmの赤色光〜近赤外光、出力5〜500mWと説明しています。

一般的な波長分類を大まかな目安として見ると、次のように考えると分かりやすいでしょう。

600〜1000nm光スペクトル基礎知識

ただし赤色光と近赤外光の境界は資料によって多少異なります。また、この論文自体が「何nmから何nmまでを赤色光」と厳密に定義しているわけではありません。

つまり、論文に出てくる600〜1000nmをすべて「赤色光」と呼ぶのは正確ではありません。

実際、このレビューには660nmなどの赤色光を使った研究だけでなく、780nm、808nm、830nm、890nm、905nm、980nmなど、近赤外光を使った研究も含まれています。

また、論文では600〜700nmの光は700〜1000nmの光より組織の深いところまで届きにくいという過去研究も紹介されています。

今回の記事では、そのため「赤色光だけの研究」としてではなく、赤色光〜近赤外光を使ったLLLT研究全体を整理したレビューとして見ていきます。

164人に光を当てた研究ではなく、164本の文献を調べたレビュー

もうひとつ大切なのが、今回の論文はひとつの臨床実験ではないことです。

研究者らは、主にPubMedとGoogle Scholarを使い、1990〜2019年に発表されたLLLTに関する研究を検索しました。

最初に集まった英語文献は320本。その後、内容を確認しながら絞り込み、最終的に164本の文献を評価しています。

項目内容
論文の種類過去の研究をまとめたレビュー
対象となった発表期間1990〜2019年
最初に集めた文献320本
途中で選ばれた文献253本
最終的に評価した文献164本
主に扱った光600〜1000nmの赤色光〜近赤外光を含むLLLT

そのため、「参加者164人に同じ赤色光を当てたところ、傷が改善した」という研究ではありません。

さまざまな波長、さまざまな対象、さまざまな実験方法の研究を集めたものです。

LLLTが研究されていた分野

164本の文献を整理すると、研究対象は大きく4つに分けられていました。

分野レビューで扱われた主なテーマ
神経系脳への光、三叉神経痛、脳外傷、神経障害による痛み
皮膚・粘膜やけど、脱毛、糖尿病性足潰瘍、口唇ヘルペスなど
がん治療に伴う症状乳がん治療後のリンパ浮腫、口内炎、皮膚炎、飲み込みにくさなど
骨・関節骨の修復、腱の修復、手根管症候群など

論文では、この4カテゴリーを中心にLLLTの研究を整理しています。

このうち、今回の「細胞再生・創傷治癒促進」というテーマと特に関係が深いのが、皮膚や粘膜の傷、やけどなどに対する研究です。

やけどの傷では、660nmや780nmなどが調べられていた

皮膚のやけどでは、傷ができたあとに炎症が起こり、その後、新しい組織が作られながら傷が修復されていきます。

レビューでは、この過程にLLLTが影響する可能性を調べた研究が数多く紹介されています。

たとえば、研究によって660nmや780nmなどの光が使われていました。

一部の過去研究では、660nmが傷の修復の初期段階、780nmが新しい組織が形成される段階で検討されています。

ただし、ここはかなり慎重に見る必要があります。

レビューで紹介されているやけど研究には、人ではなくラットなどを使った動物実験も多く含まれています。

また、論文の著者ら自身も、研究によって波長、光の量、出力、光を当てる時間などが大きく違うと指摘しています。

つまり、「660nmなら傷が治る」「780nmのほうが優れている」と、このレビューだけから決めることはできません。

傷の中では何が変わっていた?細胞やコラーゲンを調べた研究も

では、LLLTを使った傷では、どのような変化が報告されていたのでしょうか。

レビューで紹介されている過去の実験研究では、LLLTによって、コラーゲンをつくる細胞の増殖やコラーゲンの合成が増えたという結果が報告されています。

さらに、傷が縮む過程や、傷の表面が新しい皮膚で覆われていく過程が早まったとする研究も紹介されています。

ここで注意したいのは、今回のレビュー自体が、人に光を当ててコラーゲン量を測定したわけではないという点です。

あくまで、レビューで引用された過去の実験研究から報告されている変化です。

そのため、「赤色光を当てれば人間のコラーゲンが増えることが証明された」という意味ではありません。

人を対象にした研究では?糖尿病による足の傷を85人で比較

創傷治癒の中には、人を対象とした研究も紹介されています。

そのひとつが、糖尿病に伴う足の傷、いわゆる糖尿病性足潰瘍についての研究です。

この研究では85人を対象に、LLLTを使った治療と従来の治療を比較しました。

項目研究条件
参加者85人
光の出力60mW
傷に与えた光の量2〜4J/cm²
治療期間15日間
比較LLLTと従来治療

結果として、LLLTを使ったグループでは、従来の治療より傷の大きさが減少したとレビューでは報告されています。

これは、人を対象とした研究でも創傷治癒について前向きな変化が報告された例です。

ただし、このレビュー本文には、この85人の研究で何nmの光を使ったのかは記載されていません。また、「傷が何%小さくなったのか」という具体的な変化量も本文からは確認できません。

そのため、この研究を「赤色光による85人の実験」と表現することはできません。

さらに興味深いのは、すべての研究で同じ結果が出ているわけではないことです。

レビューでは別の文献について、LLLTで傷の治癒が改善したとは確認できなかったという結果も紹介しています。

前向きな研究はあるものの、結論が完全にそろっているわけではありません。

口の中の傷では660nmを10人に使用

赤色光であることが比較的はっきりしている人の研究もあります。

レビューでは、「天疱瘡」という皮膚や粘膜に水ぶくれや傷ができる病気について、10人を対象とした研究を紹介しています。

この研究では、口の中にできた病変に660nm、30mWの光を連続的に使用しました。

レビューでは、潰瘍の治療について前向きな結果だったとされています。

660nmは、今回紹介されている研究の中では赤色光に当たる波長です。

ただし、参加者は10人と少なく、このひとつの研究だけで幅広い人に同じ結果が出るとは判断できません。

傷だけではない。髪や神経、がん治療後の症状まで研究されていた

今回のレビューは創傷治癒に特化した論文ではありません。

たとえば、髪の成長については600〜1000nmの範囲でLLLTを使った研究が紹介されています。

635nmや660nmを使った研究や、男女の脱毛を対象とした臨床試験もあり、複数の研究で前向きな結果が報告されていました。

一方、神経障害による痛みについては、前向きな研究がある一方で、研究結果には食い違いもあるとされています。光の量などによって結果が変わる可能性も指摘されています。

さらに、がんそのものではなく、がん治療に伴って起こる口内炎や皮膚炎、リンパ浮腫などでも赤色光や近赤外光が研究されていました。

たとえば、乳がん治療後のリンパ浮腫では650〜1000nm、頭頸部がん治療に伴う口内炎では630〜830nmなどの光が紹介されています。

つまり、LLLTの研究対象は「傷」だけではなく、組織の修復や炎症、痛みなどに関係する幅広い分野に広がっていることが分かります。

なぜ光で傷の修復に変化が起きる可能性がある?

光を当てるだけで、なぜ傷の治り方に変化が起きるのでしょうか。

レビューでは、過去研究をもとに、光が細胞内の反応に影響する可能性が説明されています。

皮膚の傷については、LLLTが細胞内の反応に関わり、その後、細胞の増殖や移動、コラーゲンをつくる細胞の働きなどに影響する可能性が紹介されています。

神経系の研究では、細胞の中でエネルギーを作る「ミトコンドリア」が光と関係し、ATPと呼ばれる、細胞が活動するときに使うエネルギーの産生などに影響する可能性も説明されています。

ただし、これは今回のレビューで直接実験して確認した仕組みではありません。

レビューで紹介された過去の研究から考えられている仕組みとして理解する必要があります。

安全性は?「副作用が少ない」という報告はある

LLLTの安全性についても、レビュー内でいくつか触れられています。

たとえば育毛分野では、LLLTによる好ましくない変化の発生は非常に少なかったとする過去研究が紹介されています。

糖尿病性足潰瘍についても、LLLTは大きな副作用を伴わない非侵襲的な方法として紹介されています。

また、口唇ヘルペスについてレビューされた研究では、副作用が報告されなかったとされています。

ただし、今回のレビューは副作用だけを集めて人数や発生率を統計的に比較した研究ではありません。

そのため、「赤色光や近赤外光には副作用がない」とまでは言えません。

家庭用の赤色光機器でも同じことが起こる?

ここまで読むと、「家庭用の赤色LEDを傷に当てても同じような変化が起こるのでは?」と思うかもしれません。

しかし、今回の研究結果を家庭用機器にそのまま当てはめることはできません。

レビューに含まれている研究では、600〜1000nmという幅広い光が使われています。

さらに、同じ波長でも、光の強さ、当てる時間、光の量、回数などによって条件は異なります。

今回の論文の著者らも、波長、光の量、光を当てる面積、治療時間などが研究ごとに統一されていないことを重要な課題として挙げています。

「660nmなら同じ」「赤いLEDなら同じ」というわけではない点には注意が必要です。

一番の課題は、「どんな条件が最適なのか」がまだ決まっていないこと

今回のレビューでは、多くの分野でLLLTの前向きな研究結果が紹介されています。

では、「LLLTは傷の治癒に有効」と言い切れるのでしょうか。

そこまで単純ではありません。

著者らが繰り返し指摘しているのが、研究条件のばらつきです。

同じ創傷治癒でも、研究によって波長が違います。光の量も違えば、出力、当てる時間、対象となる傷の種類も違います。

特に傷の研究については、レビュー内でも前向きな結果と、はっきりした改善を確認できなかった結果の両方が紹介されています。

そのため、現時点では、

「赤色光や近赤外光を含むLLLTは創傷治癒について研究され、前向きな結果も複数報告されている。しかし、最適な波長や光の量、使用方法はまだ統一されていない」

という受け止め方が、このレビューに最も近いでしょう。

このレビューを見るときに知っておきたい限界

今回の論文には、いくつか重要な限界があります。

まず、非常に幅広い研究をまとめています。

神経、皮膚、髪、骨、がん治療に伴う症状など対象が異なるうえ、人を対象とした臨床試験だけでなく、動物実験や過去のレビューなども含まれています。

また、今回の論文は複数の研究結果を数値として統合する「メタ解析」ではありません。

そのため、「LLLTを使うと傷の治癒が平均○%早くなる」といった、全体をひとつの数字にした結果は示されていません。

さらに、研究ごとに光の条件が違います。

著者ら自身も、波長、光の量、照らす面積、治療時間などに一貫性がないことを結論で指摘し、より標準化された研究が必要としています。

検索対象も2019年までなので、それ以降に発表された研究は含まれていません。

なお、著者らは利益相反はないと記載しています。研究はShahid Beheshti University of Medical Sciencesの支援を受けています。

まとめ|赤色光・近赤外光と創傷治癒には研究の蓄積がある。ただし条件はまだバラバラ

今回のレビューから分かるのは、赤色光〜近赤外光を含むLLLTが、創傷治癒をはじめ幅広い分野で研究されてきたということです。

傷ややけどに関する研究では、660nmや780nmなどの光が調べられ、細胞の増殖やコラーゲン合成、傷の修復に関係する変化が報告されています。

人を対象とした研究でも、85人の糖尿病性足潰瘍を調べた研究などで前向きな結果が紹介されています。

一方で、すべての研究結果が一致しているわけではありません。

さらに、600〜1000nmはすべて赤色光ではなく、赤色光から近赤外光までを含む広い範囲です。

波長だけでなく、光の量、出力、使用時間なども研究ごとに異なります。

このレビューから一番素直に読み取れるのは、赤色光・近赤外光を使ったLLLTには創傷治癒や組織修復に関する研究の蓄積があるものの、「どの光を、どのくらい使うのが最適なのか」まではまだ定まっていないということです。

参考文献

Evaluation of Efficacy of Low-Level Laser Therapy

Vahid Mansouri, Babak Arjmand, Mostafa Rezaei Tavirani, Mohammadreza Razzaghi, Mohammad Rostami-Nejad, Mostafa Hamdieh
2020
Journal of Lasers in Medical Sciences, 11(4), 369–380
DOI:10.34172/jlms.2020.60 cell2_jlms-11-369