red light

このサイトについて

category

cell-regeneration-and-wound-healing

細胞再生・創傷治癒促進

画像:記事ヘッダーイラスト

がん治療中の口の副作用は、赤色光+近赤外光のPBMで変化するか

画像:記事アイキャッチ

放射線治療や抗がん剤治療では、口の中がただれたり、痛みが強くなったり、味がわかりにくくなったりすることがあります。

では、赤色光や近赤外光を使い、細胞や組織の働きに影響を与える「PBM(フォトバイオモジュレーション)」※を治療中に繰り返し行うと、こうした口のトラブルは軽くなるのでしょうか。

この疑問を、頭頸部がんの患者53人で調べた臨床試験が2025年に『Oral Oncology』に掲載されました。

使われたのは、口の中に当てる660nmの赤色光と、唾液腺のある顔まわりに当てる808nmの近赤外光です。週に1〜2回ではなく、放射線治療中に月曜から金曜まで週5回行う、かなりしっかりした医療用のPBMでした。

結果は単純な「全部よくなった」ではありません。

特に差が見られたのは、口の粘膜炎の進み方と唾液の量です。一方、口の乾燥感や口の開きにくさ、痛み止めの使用などでは、はっきりした違いが出なかった項目もありました。

研究を数字から見ていきましょう。


※PBM(フォトバイオモジュレーション):赤色光や近赤外光などを使い、細胞や組織の働きに影響を与える方法。今回の研究では、660nmの赤色光と808nmの近赤外光が使われました。

53人を「PBMあり」と「PBMなし」に分けて比較

研究に参加したのは、口腔・中咽頭・上咽頭のがんがあり、放射線治療または抗がん剤を組み合わせた放射線治療などを受ける成人です。

最初に64人が無作為にグループ分けされましたが、途中で11人が除外され、最終的に53人が解析されました。

研究の概要内容
最終解析人数53人
PBMを受けなかったグループ26人
PBMを受けたグループ27人
平均年齢64.3歳
年齢範囲42〜85歳
男性36人(67.9%)
女性17人(32.1%)
主な治療放射線治療、抗がん剤+放射線治療など
治療中の評価週1回、6週間
治療後の確認15日後、2か月後、3か月後、6か月後
研究登録番号NCT04717765

比較は無作為に行われました。

ただし、本人やPBMを行うスタッフには「どちらのグループか」がわかっています。一方、口の粘膜炎を評価する担当者などにはグループ情報を知らせない方法がとられました。

つまり、完全に誰にもわからない状態で比較した研究ではありません。

週5回、口の中78か所以上へ。どんな光を使った?

ここは、家庭用の赤色LED機器などと混同しないためにも重要です。

PBMグループでは、放射線治療を受ける日の約30分前または30分後に光を当てました。頻度は月曜から金曜まで週5回で、放射線治療の期間を通して続けています。

しかも、1種類の光だけではありません。

光を当てた場所光の種類当てた場所・数1か所あたり
口の中赤色光 660nm頬の内側、唇、舌、口蓋など最低78か所10秒・1J
顔の外側近赤外光 808nm耳下腺・顎下腺付近の10か所20秒・2J

使用されたレーザーの出力は100mWでした。

口の中では、左右の頬の粘膜、唇の内側、舌の表裏や側面、硬口蓋・軟口蓋など、かなり広い範囲に赤色光を当てています。

808nmの近赤外光は、唾液をつくる耳下腺と顎下腺の位置に皮膚の上から当てました。

なお、活動中の腫瘍そのものにはPBMを当てていません。 腫瘍が手術で取り除かれていない場合には、健康な部分だけに光を当てるよう調整しています。

両グループとも、必要に応じて痛み止め、局所麻酔薬、栄養サポートなどの通常診療を受けました。

一つ注意したいのは、PBMを受けなかったグループでは、0.12%クロルヘキシジンによる1日3回・1回1分のうがいも行われていたことです。この違いは、後で紹介するカンジダ感染の結果を見るうえで重要になります。

一番はっきり違ったのは「口の粘膜炎」の進み方

まず研究の中心となったのが、放射線治療などによって起こる口腔粘膜炎です。

これは、一般的な小さな「口内炎」と完全に同じものではありません。がん治療の影響によって口の粘膜に炎症やただれが生じ、重くなると食事にも影響する状態です。

研究では重症度を0〜4で評価しました。数字が大きいほど重い状態です。

結果を見ると、治療開始後かなり早い段階から違いが表れています。

時点粘膜炎があった人:PBMなし粘膜炎があった人:PBMあり平均重症度:PBMなし平均重症度:PBMあり
1週目16/26人(61.5%)3/27人(11.1%)0.70.1
2週目24/26人(92.3%)15/27人(55.6%)1.50.6
6週目26/26人(100%)19/27人(70.4%)1.91.0
治療終了15日後26/26人(100%)10/27人(37.0%)1.20.4
2か月後6/26人(23.1%)0/27人(0%)0.20
3か月後0%0%00

特にわかりやすいのが1週目です。

PBMなしでは61.5%、およそ10人に6人に粘膜炎が見られました。一方、PBMありでは11.1%、およそ10人に1人でした。

さらに研究期間中には最終的に全員が何らかの粘膜炎を経験したものの、PBMグループでは2週目と3週目まで重症度3の粘膜炎が1人も確認されませんでした。

つまり、この研究から読み取りやすいのは、PBMによって粘膜炎そのものが完全に防がれたというより、「出てくる時期が遅く、重症化も抑えられる方向だった」という点です。

また、治療から2か月たった時点では、PBMグループでは粘膜炎が0人になっていましたが、PBMなしでは23.1%に軽い粘膜炎が残っていました。

粘膜炎があった人の割合の推移折れ線グラフ

もう一つ目立ったのが「唾液量」。6か月後にも差がありました

粘膜炎と並んで興味深いのが、唾液の変化です。

研究では、紙状の測定器を使って5分間の唾液量を調べています。数字が大きいほど、唾液が多く出ていることを意味します。

まず、刺激を与えず自然に出る唾液を測った結果です。

時点PBMなしPBMあり
治療前41.7744.59
1週目32.1541.89
6週目24.2335.74
治療終了15日後22.1534.30
2か月後26.1238.89
3か月後22.6237.44
6か月後28.6239.78

単位はmm/5分です。

この検査では、論文上37mm/5分以上が正常範囲、30〜36.99mmが軽度の唾液減少、30mm未満が強い唾液減少とされています。

治療前には大きな違いはありませんでした。

ところが1週目から、PBMグループの平均値はPBMなしより高く、その差は6か月後にも残りました。

6か月後はPBMなしが28.62、PBMありが39.78。 平均値だけを見ると、PBMグループは正常範囲の基準を上回り、PBMなしのグループは30未満でした。

ただし、これは「PBMを受けた全員の唾液量が正常だった」という意味ではありません。あくまでグループ全体の平均値です。

刺激なし唾液量の推移折れ線グラフ

唾液を出すよう刺激した検査でも、6か月後に差

研究ではもう一つ、唾液腺を刺激した状態で唾液量を測っています。

こちらでは50mm/5分以上を正常な唾液腺機能としています。

時点PBMなしPBMあり
治療前53.4257.70
1週目44.6552.93
6週目41.5845.07
治療終了15日後41.0844.00
2か月後39.8546.81
3か月後41.0046.93
6か月後40.7751.81

こちらも6か月後を見ると、PBMグループでは平均51.81まで戻っているのに対し、PBMなしでは40.77でした。

この研究では口の中だけでなく、808nmの近赤外光を唾液腺付近にも当てていることがポイントです。

そのため、この唾液量の結果を「660nmの赤色光だけによる変化」と考えることはできません。赤色光と近赤外光を組み合わせた、この研究独自のPBM条件で得られた結果です。

痛みはずっと軽かったわけではありません

では、つらさそのものはどうだったのでしょうか。

痛みは0〜10点で本人に答えてもらいました。0が痛みなし、10が最も強い痛みです。

治療3週目以降はPBMグループの平均値が低い傾向でしたが、明確な群間差が確認されたのは5週目と治療終了15日後だけでした。

時点PBMなしPBMあり
5週目7.26.0
6週目7.25.9
治療終了15日後5.64.3
2か月後2.92.4
6か月後0.40.6

6週目は数字だけを見ると7.2対5.9ですが、この時点では研究上、偶然だけでは説明しにくい差とは判断されませんでした。

つまり、「PBMを受ければ治療中ずっと痛みが少なくなる」とまでは言えません。

痛み止めの使用についても、PBMグループで一貫して少なくなったわけではありません。

むしろ2か月後には、痛み止めを使っていた人はPBMなしで5人/26人(19.2%)、PBMありで13人/27人(48.1%)と、PBMなしのほうが少ないという結果でした。

著者らも、研究全体として鎮痛薬の使用量を減らす明確な効果は確認されなかったとまとめています。

味覚の変化は?全員が経験したものの、治療終盤では差

味が変わった、味を感じにくいといった「味覚の変化」も0〜10点で評価されました。

驚くことに、研究参加者全員が治療中に何らかの味覚変化を経験しました。

両グループとも治療が進むにつれて悪化しましたが、治療終盤ではPBMグループの平均値が低くなっています。

時点PBMなしPBMあり
5週目7.66.3
6週目7.96.3
治療終了15日後6.85.4
2か月後4.64.2
6か月後1.81.6

明確な群間差が確認されたのは、治療6週目と治療終了15日後です。

その後は両グループとも徐々にスコアが下がり、6か月後には1.8対1.6と近い値になりました。

こちらも「PBMが味覚障害を防いだ」という結果ではありません。治療中の悪化の程度が、特定の時期に小さかったと捉えるのが適切です。

唾液が多くても「口が乾く感じ」は明確には変わらなかった

少し意外なのがここです。

機械的な検査ではPBMグループの唾液量が保たれていましたが、本人が感じる「口が乾く」という感覚には、研究全体として明確な改善が確認されませんでした。

口の乾燥感は11〜55点で評価し、数字が高いほど乾燥感が強いと判断します。

治療が進むにつれて両グループともスコアが上がりました。

6か月後の時点では、2つのグループの数値に差が出ています。 ただし、研究全体を通して見ると一貫した違いではなかったため、著者らは「PBMで口の乾燥感が改善した」とは結論づけていません。

ここからわかるのは、少なくともこの研究では、実際に測った唾液量と、「口が乾く」という本人の感覚がまったく同じ動きをしたわけではないということです。

口の開きにくさやカンジダ感染には、はっきりした違いなし

「口が開きにくくなる」状態についても調べました。

研究では、口を開けたときの幅が35mm以下の場合を、口が開きにくい状態として評価しています。

しかし、治療中から6か月後まで、PBMによる明確な差は確認されませんでした。

さらに、口腔カンジダ感染も調べています。

53人中40人(75.4%)が、研究期間中のどこかでカンジダ感染を経験しました。

興味深いことに1週目では、PBMなしは0人だった一方、PBMグループでは10人/27人(37%)に確認されています。

ただし、ここから「PBMがカンジダを増やした」と判断することはできません。

なぜなら、この研究ではPBMなしのグループだけが0.12%クロルヘキシジンのうがいを行っていたためです。著者ら自身も、この条件の違いが結果に影響した可能性を挙げています。

研究全体では、PBMによってカンジダ感染が減った、あるいは増えたという一貫した差は確認されませんでした。

半年後はどうなった?粘膜炎は両グループで消失

「治療中だけ良くても、その後すぐ元に戻るのでは?」という点も気になります。

この研究では、治療終了から6か月後まで追跡しました。

口腔粘膜炎は3か月後には両グループとも0人となり、その状態が6か月後にも続いています。

痛みも6か月後には、PBMなし0.4点、PBMあり0.6点。味覚変化も1.8点対1.6点まで低下しました。

一方、唾液量では6か月後にも差が残っています。

特に刺激なしの唾液量は28.62対39.78、刺激した状態では40.77対51.81でした。

このため今回の研究で長めに残った違いとしては、唾液機能の維持がもっとも目立つ結果の一つといえます。

ただし、6か月はがん治療後の影響を見る期間として十分長いとは言い切れません。著者ら自身も、口の乾燥や唾液減少、味覚、口の開きにくさなどはさらに長期間変化する可能性があるため、この研究では長期的な影響までは確認できていないとしています。

なぜ粘膜炎や唾液に違いが出た可能性がある?

では、PBMによってなぜこうした違いが出たのでしょうか。

ここは、今回の研究で直接測った結果と、著者らが過去研究をもとに考えている仕組みを分けて読む必要があります。

今回の研究で直接確認したのは、

  • 口腔粘膜炎の発生や重症度
  • 痛み
  • 味覚変化
  • 唾液量
  • 口の乾燥感
  • 口の開き具合
  • カンジダ感染
  • 痛み止めの使用

などです。

一方、細胞の中で何が起きていたかまでは測定していません。

論文では過去の研究をもとに、PBMが細胞の酸化ストレスや炎症に関わる反応に影響する可能性が紹介されています。

また著者らは、唾液腺についても、PBMが唾液をつくる細胞のダメージや回復に影響し、その結果として唾液機能が保たれた可能性を考えています。

味覚についても、味を感じる組織の修復に影響した可能性が述べられています。

ただし、これらは今回の53人で細胞レベルの仕組みまで確認した結果ではありません。 「この仕組みが起きたから唾液が保たれた」と断定できる研究ではない点には注意が必要です。

安全性は?この研究だけでは答えられない部分もあります

PBMはがん治療中に行われているため、安全性も気になるところです。

今回の研究では、活動中の腫瘍そのものには光を当てないようにしています。また、患者と施術者はそれぞれの光に対応した保護眼鏡を使用しました。

一方、論文には「PBMによって起きた有害な反応」を独立した項目として詳しく集計した結果は示されていません。

また、この研究で評価したのは主に口の副作用です。

がんの再発率や腫瘍の増殖、治療成績、生存期間などを比較する試験ではありません。そのため、この53人・6か月の研究だけから、がんそのものに対する長期的な安全性まで判断することはできません。

論文では過去研究を引用し、PBMはがん患者への支持療法として使用されていると説明していますが、それと今回の臨床試験で直接確認した内容は分けて考える必要があります。

家庭用の赤色光機器にも同じ結果を当てはめられる?

今回の研究を読んで、「660nmや808nmなら家庭でも同じなのでは?」と思うかもしれません。

しかし、そこまではこの論文から言えません。

今回使われたのは、医療現場で使用するレーザー機器です。

しかも、

660nmの赤色光を口の中の最低78か所に10秒ずつ、808nmの近赤外光を唾液腺付近10か所に20秒ずつ、週5回

という非常に具体的な方法でした。

家庭用のLEDパネルやマスクなどでは、光の強さ、当てる距離、照射範囲、1回あたりの光の量などが異なります。

さらに今回は、頭頸部がんの放射線治療中に医療スタッフが行ったPBMです。

そのため、この結果を一般的な家庭用赤色光機器や美容目的の赤色光ケアへそのまま広げることはできません。

ここは冷静に。研究を見るうえで知っておきたい限界

今回の研究は、無作為に2グループへ分けて比較している点が大きな特徴です。一方で、結果を読むうえではいくつか注意点があります。

まず、最終的な参加者は53人で、1つの医療機関だけで行われた研究です。より多くの患者や別の施設でも同じ結果になるかは、これだけではわかりません。

また、参加者とPBMを行うスタッフには、誰がPBMを受けているかがわかっていました。評価担当者の一部は情報を知らされていませんが、完全な偽治療を使った比較ではありません。

放射線治療についても、患者ごとに治療計画が異なるため、放射線の量や当たる場所を完全にはそろえられていません。

さらに、グループ間の条件も完全に同一ではありません。

論文の表では、治療前の1日あたりの喫煙本数や飲酒年数などに差が記載されています。口の開き具合も治療前から平均値に差がありました。

そして特にカンジダ感染については、PBMなしのグループだけがクロルヘキシジンによるうがいを行っていたため、PBMだけの違いとして解釈しにくくなっています。

追跡期間も6か月です。

著者らも、唾液減少、口の乾燥、味覚変化、口の開きにくさなどはさらに長期間変化する可能性があり、この研究から長期結果までは判断できないとしています。

なお、この臨床試験には研究資金の提供はなく、著者らは研究結果に影響しうる金銭的な利益相反はないと申告しています。

結局、この研究からどこまで言える?

この研究から最も素直に読み取れるのは、頭頸部がんの放射線治療中に660nmの赤色光と808nmの近赤外光を組み合わせたPBMを週5回行った人では、口腔粘膜炎の発生が遅れ、重症度も低い状態で推移したということです。

特に1週目の粘膜炎は、PBMなしの61.5%に対してPBMありでは11.1%でした。

さらに、唾液量にも違いが見られました。刺激なしの唾液量は6か月後に28.62対39.78、刺激した状態では40.77対51.81でした。

一方で、結果はすべての項目でそろっているわけではありません。

痛みや味覚では一部の時点だけ差があり、口の乾燥感、口の開きにくさ、痛み止めの使用、カンジダ感染では、研究全体を通した明確な改善は確認されませんでした。

また、この研究は「赤色光だけ」の研究ではありません。口の中には660nmの赤色光、唾液腺付近には808nmの近赤外光を使っています。

家庭用機器の効果を調べた研究でもありません。

したがって今回の結果は、決められた医療用PBMプロトコルを、頭頸部がん治療中の患者に行った場合の結果として受け取るのが適切です。

参考文献

Photobiomodulation for the prevention of oral side effects secondary to head and neck cancer therapy: results of a randomised, single-blind clinical trial

Gisela Cristina Vianna Camolesi, Irene Beatriz Prado-Pena, Antonio Gómez-Caamaño, Concepción Victoria-Fernández, Andrés Blanco-Carrión, Abel García-García, Pilar Gándara-Vila, Mario Pérez-Sayáns
2025
Oral Oncology, 164, 107266
DOI:10.1016/j.oraloncology.2025.107266
ClinicalTrials.gov:NCT04717765